| きものの話あれこれ |
村田吉茂 |
1971年(昭和46年)1月「ミセス」掲載
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No.1 まずはじめに
美をつかむということ
きものについて具体的にお話しする前に、どうしてもわかってほしいことがあります。それは美の意識をしっかり持っていただきたい、つまり美しいということはどういうことなのかを知っていただきたいと思うのです。特に、きものでたいせつなのは色ですから、美しい色彩感覚をはっきりつかんでしまってほしいですね。すぐれた色彩感覚をつかめば美しいきものが選べるわけです。
それじゃどうやって美をつかむかというと、自然から学ぶことですね。神のつくった自然ほど美しいものはないとわたしは思うんですが、たとえば、旅をしても、なんとなく「景色がいいわね」と思うだけではだめなんですね。海の色、空の色、木の色、すべて自然の持つ色彩の美しさを意識してはっきり見ることです。自然を見て第一に美しいと思うのは色彩ですね。それをしっかりつかんで学んでいただきたいわけです。自然の持つ美しさは、なにも旅をしたり郊外でなきゃ見られないわけではないんです。町の花屋に並んでいる花は意識的に並べたわけじゃありませんけど、どれ一つ美しくないものはないんで、ただ漫然と「きれいね」とながめているだけでなく、自然から学ぶ気持ちで、一枚の葉、花びらを見ることですね。自然の色のいかに美しいことがおわかりになるはずです。
美への意識を高めるためには、このほかに一級品の絵画や美術工芸品を見ることですね。きものを選ぶのに瀬戸物やよろいを見たってしょうがないなんていうのはとんだまちがいですよ。美の水準の高いものをたくさん見ていると、美に対する教養が高まりますね。美への鑑識眼ができるわけです。気をつけて見ると、高い水準の美術品に使われている色彩は、みな天然の色ですよ。まあ、人間の作った芸術品を見る前に、最初に言ったように、天然、自然の美しさに目を向けることが、なんといってもいちばんたいせつなことだと思いますよ。
ただ、美しい色彩も、国情や、気候、風土によって違うということを知っていないといけませんね。日本で美しいと思っている色も、外国では美しくないことがあります。日本の色はぬれた色ですから、乾燥した国、かんかん照りの国へ持っていってもよくない。そういう国は強烈な原色がよく似合うわけです。これはなにも外国へ行かなくても、日本の中でも言えることなんですね。たとえば同じよそいきでも、お茶席のきものと、オペラなんかの音楽会へ着ていくきものは違いますね。まわりの建物とふんいき、これが違うから着るものもおのずから違わなきゃいけないわけです。その違いを見分けるのが、きものの教養とでもいうんでしょうかー。
ま、この教養が身についていれば、外国で流行している色だから何でもうのみにするという、洋装の流行に対する危険も冒さなくなるんじゃないでしょうか。