コラム

きものの話あれこれ 村田吉茂
1971年(昭和46年)1月「ミセス」掲載

No.1 まずはじめに
自分をきびしく見つめる

 次にお話しすることは、考えかたによっちゃいちばんたいせつなことかもしれませんね。

 それは、ご自分をよく知るということなんです。鏡の前に立って、人間が誰でも持っているうぬぼれをすて、冷静に自分を見ることです。太っている人は太っていることを、色の黒い人は黒いことを、そして自分の年齢をきびしく見つめることですね。美人に見せたいとか、若く見せたいとかの邪念をすてることです。きものは、容貌や外見の美醜で選ぶのでなく、そのかたの人柄で選ぶものなんです。若く見せたいとか、美人に見せたい、裕福に見せたいなどという気持ちできものを着ると、鼻持ちならない感じがどこかに出ますね。自分にないものをきものに求め、よく見せようとすると、よく見えないばかりか、せっかくそのかたが持っている本来のよさまで失ってしまうわけですね。まあ、きものに虚偽は慎まなくゃいけません。

 長い間のわたしの経験で、気持ちのすなおな人の作品は、すぐれた作品が多く、そういういいものは、やはりすなおな人柄のかたが選び、またよく似合うということを知っています。作った人のすなおな気持ちが、選ぶ人に映るわけですね。

 今回は、いろいろ抽象的なことをお話ししましたが、これを読んでいただいたあと、ウールのきもの一枚、お茶わん一つを選ぶにも美の意識を持って選んでいただきたい、そして、たとえ野草でもいいから家の中に自然の花や木を飾る心、美への関心を持っていただけたらと思いますね。